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「専門家」の私も立ち止まる。DE&I推進でぶつかった「3つの壁」と私の反省

2026.03.12

「The Wellbeing Week」というイベントが、今年で10年目を迎えます。 日本のウェルビーイング研究の第一人者である前野隆司先生が、3月20日の「国際幸福デー」を記念して始められたこのイベント。当初は1日限りでしたが、年々輪が広がり、今年は3月13日~22日と、1週間を超える規模で開催されます!

▼今年の概要はこちらから [THE WELLBEING WEEK 公式サイト]

私は6年ほど前から実行委員に加わり、ここ数年はUD(ユニバーサルデザイン)担当チームのリーダーを務めてきました。 きっかけは、パンデミックでオンライン化が加速した際、聴覚障害のある知人が「ろう者への配慮が必要だ」と切実に訴えていた姿を見たことです。 「便利になった」と喜んでいた自分がいかに無自覚で、取り残される人の存在に想像力が及んでいなかったか。その時の深い反省が、私の原動力になっています。

DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の講師として登壇する機会も多い私ですが、このUD活動は、私にとって「実践者」としての未熟さを突きつけられる修行の場でもあります。 活動を通じて見えてきたのは、組織やイベントでDE&Iを推進しようとする担当者が直面する、「3つの大きな壁」でした。

1. 「当たり前」という無意識の壁

これは、私自身も含めた「マジョリティ(多数派)」側の気づきの難しさです。 社会のルールや仕組みは、どうしても多数派にとって使いやすいように作られがちです。そのため、そこに不便を感じない立場にいると、問題そのものが見えにくいという構造があります。

例えば、私は当初「字幕があれば十分だろう」と思い込んでいました。しかし、ろう者の方々にとって手話が第一言語であり、日本語字幕は「外国語の字幕」を読むような感覚に近い場合もあるのだと、当事者の本を読んで初めて知りました。専門家を名乗っていながら、その核心に気づけていなかった自分に愕然としたものです。

また、予算やリソースの壁も現実的です。「手話通訳を入れると、メインの画面が小さくなって見にくい」といった声が出ることもあります。 こうした声に対して、「変化への抵抗」と片付けるのではなく、どうすれば全員の満足度を上げられるか…悩ましいところです。

そんな悩みを抱えながらも活動していた時に、カンパやクラウドファンディングという方法でスタッフが知恵を出し合い、資金を捻出してくれました。この経験は、私にとっても「一人で抱え込まなくていいのだ」という大きな学びになりました。また、ややもすると「わかってもらえない」という周囲への不満を抱きがちな自分に、他人への信頼感を回復させてくれる体験ともなりました。

2. 「心の距離」という壁

環境を整えても、すぐに当事者の方が参加してくださるとは限りません。 長年「参加しにくい」環境に置かれてきた方々からすれば、一度や二度の発信で「ここは安心だ」と感じるのは難しいことだからです。

よく「参加者がいないから配慮は不要」という声も聞かれますが、私は「配慮がないから参加できない」という順番なのだと考えています。 「自分の使えるトイレがあるか分からない場所には出かけない」のと同じで、まずは「ここはあなたの居場所です」という姿勢を整え続ける。その根気のいるプロセスに、私も日々向き合っています。

3. 「完璧ではない自分」への批判の壁

以前、別の記事([ダイバーシティ推進者が心折れる理由])でも書きましたが、良かれと思って取り組んだ施策が、当事者の方から見て不十分で、厳しいご指摘をいただくこともあります。 マジョリティ側の無理解と、当事者側の切実な期待。その板挟みになり、DE&I担当者の心が折れそうになる瞬間は少なくありません。

私自身、UDチームを立ち上げた人間として、「これで正解なのだろうか」と足がすくむことが何度もあります。


こうした壁を一つひとつ乗り越えようと、現場で踏ん張っているDE&I担当者の皆さんを、私は心から尊敬します。 私もスマートな専門家などではなく、皆さんと同じように悩み、反省し、時に失敗しながら歩んでいる一人です。 今回の「The Wellbeing Week」での取り組みが、少しでも皆さんの活動のヒントや励みになればと願っています。

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