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理不尽な上司に怒りをぶつけるべきか?

2018.09.13

<上司への怒りはどう対処?>

プレジデント・オンラインで3回の連載を予定していた「アンガーマネジメント講座」ですが、残念ながら第2回で中止となりました。
理由は、編集サイドと執筆者である私との間でタイトルづけの方針が折りあわなかったためです。
アクセス数の伸びを重視する編集サイドの考え方はありがたいと思うものの、文中の登場人物について人格を否定しかねないタイトルであったため、変更を依頼しました。しかし、応じていただけないとの返答だったため連載を中止することを決断しました。
私としてはかなり力を入れて書いたものだったので、こんな結果になってしまったのは残念ですが、気を取り直して自分のブログに掲載させていただきます。プレジデント・オンラインでの第1回と合わせて、読んでいただけたら嬉しいです。

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何も言わずに我慢し続けたほうがいいのか

会社が「働き方改革」に取り組み始めたとたん、手のひらを返したように「ノー残業」を唱え始めた上司に怒りを覚えたAさん。前回「ブチッときても6秒間は我慢するべき理由」では、Aさんの事例をもとに怒りのメカニズムを解きほぐしました。今回は、頭にくる上司がいた場合、どんな行動をとったらよいのかをアンガーマネジメントの観点から考えていきます。

Aさんの例は次のようなものでした。

昼夜を問わずお客様の要望に応える営業スタイルを誇り、部下にも強く推奨してきた上司が、会社が「働き方改革」の旗を振りだし始めたとたんに「残業するな」と指示。だからといって仕事が減るわけでもない現状との板挟みに、Aさんは悩み、上司に怒りを覚えていました。

上司から「残業するな」と言われることは、Aさんにとって「管理職の立場としてしかたない」と許容できる範囲でした。しかし、Aさんの仕事のやり方を否定するような言い方であったり、残業の邪魔をしたりするかのような声のかけ方は許容できないものだったのです。

では、Aさんは、どんな行動をとればよいのでしょうか? 上司に対して「邪魔をしないでください」と伝えればよかったのでしょうか? それとも、今まで通り、何も言わずに我慢し続けたほうがいいのでしょうか?

まずは「最優先事項はなにか」を考える

対処法を考えるのにまず考えていただきたいのが、その出来事が「変えられる」か、「変えられない」か、ということです。ここでの「変えられる」というのは、自分の働きかけや取り組みでコントロールできる否かを意味しています。

次に考えていただきたいのが、その出来事が自分にとって重要か否か、ということです。

これを図にすると、以下のようなマトリックスになります。

4つの行動パターン(日本アンガーマネジメント協会提供)

マトリックスのどの象限にその出来事が位置付けられるかによって、その後に取る行動が変わってきます。

  • 自分で変えられるし、重要である場合:すぐに取り組む最優先事項。ただし、「いつまでに」「どの程度まで変えるか」を決めて、打ち手を考えます。
  • 自分で変えられるが、重要でない場合:重要ではないので、余力があれば対応します。余力がなければ「重要」と思うタイミングがきたら、取り組めばよいものとし、現時点では対応の必要はなし、とします。
  • 自分で変えられないが、重要である場合:変えられないことを受け入れた上で、別の現実的な対応方法を探します。
  • 自分で変えられないが、重要でない場合:放っておく。

「上司の言動は変えられない」という現実を受け入れる

私たちの時間や労力は有限です。物事には優先順位をつけて対応していく必要があります。労力に見合った効果が期待でき、自分にとって重要なものが何かを峻別し、そこに注力するのが賢い方法と言えるでしょう。変えられる可能性が低く、さして重要でもないことに労力をかけて効果が出ないことにいらいらするのは得策とはいえません。

では、ここでAさんの事例について考えてみましょう。

まず、①の可能性を検討しました。つまり、上司にその言動を改めてくれるよう、Aさんから働きかけるという方法です。(前回の「6秒ルール」でお伝えしたように、伝える時は、衝動的にはならず、冷静に行うことが鉄則です)

①を取る場合は、「いつまでその働きかけを行うのか」という期限と、「上司の言動がどこまで変わることを目標とするのか」を決めておく必要があります。その期限が来た時点でもし目標とするレベルまで変わっていなかったとしたら、それは「変わらない」と判断し、③に移します。いつまでも労力をかけて「変わらない」ことにいらつかないためです。

検討した結果、Aさんは「上司が変わる可能性は低い」という結論に至りました。上司には、他の部下から言動を改めてほしいと、これまでも何回も言われたことがあったそうです。しかし変わらなかった。つまり、Aさんにとって上司への働きかけられる期間はとうに過ぎて、すでに「変わらない」という判断に至っていたのです。

重要性の観点ではどうでしょうか。Aさんの日々の働きやすさに直接影響を及ぼしているという点で、上司の言動は、非常に重要度の高いものと考えられます。

つまり、この場合は、図1の③に位置付けるという結論になりました。「上司の言動は変えられない」という現実を受け入れつつ、他の方法を考えることになりました。

「自分を変える」という視点に立つ

では、代替案としてどんな方法が考えられるでしょうか。ここでポイントになるのは、「自分を変える」という視点に立つことです。

たとえば、「その状況を楽しむ方法を見つける」というのは「自分の発想」を変える方法です。「いや、こんないらつく状況を楽しむことなんて無理だ」と思われるでしょうが、実際に私がクライアントからうかがった例をご紹介しましょう。

相手は上司ではなく取引先の担当者でした。嫌みばかりをいうその人物に対し、自社のメンバーはみんな頭に来ていたそうです。しかし担当を変えてもらうのは不可能だったので、職場のメンバーで知恵を絞りました。みんなが共通して特に嫌だと思っているその人の口癖を決め、毎日、それを言われた回数を数えました。

そして、週ごとに集計。メンバーの中でそのセリフを一番言われた人が、その週のチャンピオンというゲームにしたのだそうです。事態の改善にはならなくても、その担当者に対する怒りは、かなり軽減できたと聞きました。

あるいは、「今の上司がいる職場から異動する」というのも一つの方法でしょう。自分の働く場所を変えるという発想です。もちろん、異動希望がかなうかどうかは、その時の事情に左右されますが、相手を変えるより可能性が高いなら試してみる価値はあります。

Aさんは、結局、異動を希望しました。さらに、体調悪化を理由に産業医から人事部に意見書を出してもらうことになりました。それが功を奏して、別の支店に移り、今は元気に営業の第一線で活躍されています。

「それは自分の人生をより良くするか」

行動の選択肢を選ぶうえで、留意しておきたいことが3点あります。

1】重要か否かの判断軸は「それは自分の人生をより良くするか」。

その出来事が重要か否かの判断軸となるのは、自分の生活や人生に、直接に影響を与えてくるものかどうか、です。

たとえば、有名人の不祥事に怒りを覚えたとします。では、その有名人を糾弾したほうがよいのでしょうか? 有名人の不祥事は、ほとんどの場合、自分には関係のないことです。糾弾したところで自分の生活に何の影響も及ぼしません。だとしたら、「どう責任を追及しようか」などときりきりせず、放っておくことです。

そうした不祥事の中には、社会的影響力の大きいこともあるでしょう。間接的に自分の人生にマイナスの影響が懸念されることもあります。その場合は、相手をいたずらに攻撃するよりも、影響を回避し、望ましい状況に改善することに注力するほうが現実的です。

誰かへの攻撃は、また別の誰かの攻撃に連鎖していきます。怒りを攻撃につなげるのではなく、より望ましい社会を作るために使うほうが建設的です。

2】デメリットも踏まえたうえで選択する。

どの選択肢を選んでも、メリットだけではなく、デメリットが伴うことを認識する必要があります。

Aさんは、それまで自宅から近く、通勤の便のよい支店に勤務していました。しかし、異動によって1時間以上かかる場所に通勤することになりました。また、せっかくそれまで開拓してきたクライアントとの取引を中断し、土地勘のないエリアで営業に従事しなくてはならなくなりました。

しかし、そうしたデメリットがあっても、異動によって上司と離れることで自分の健康を回復することが重要だと判断したのです。

人生に100%良いことばかりの選択肢は、ほぼありません。何かしらのデメリットは伴います。そのデメリットを洗い出したうえで何を選択するのか、冷静に判断しないと後悔につながることになります。

3】目的は「相手を負かす」ことではない

さて、ここまでのAさんの選択を聞いて、釈然としない思いを抱いた方もいるかもしれません。「上司の態度が問題だったのに、なぜAさんが折れなくてはならないのか?」そんな疑問が湧いてきます。

アンガーマネジメントの目的は、「相手に勝つこと」ではありません。「自分自身が怒りから解放されて楽になること」です。そのためには、どちらが正しいかにこだわるより、単純に自分が楽になれる方法は何かを考えることが近道なのです。もし、「なんで自分が…」という思いが湧いてきても、それにとらわれないことが大切です。

「それは自分の人生をより良くするか」

人間に自律的成長と健全な人間関係構築を目指して1950年代に提唱された心理学、「交流分析」では、「他人と過去の出来事は変えられない。変えられるのは自分と未来」と提唱しています。どんなに理不尽に思える相手の行動にもその人なりの考えがあり、他者からの説得でそれを変えられるとは限りません。どちらの考えが正しいかを争ってもなかなか埒はあきません。

過去に起こったことも同様です。「どうしてそうなってしまったのか」と悩んでみても過去の事実が変わるわけではありません。相手を変えることや過去の出来事にイライラを募らせるよりは、自分を変えるほうが望ましい未来につなげる近道なのです。

アンガーマネジメントを実践する中でさまざまな選択を行っていきます。その選択を通じて、自分の人生において何を重視するか、どんな人生を歩みたいのか…アンガーマネジメントは、自分自身の生き方や、ありたい姿を自分に問うことにもつながります。

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