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書評「子の無い人生」

2018.07.13

キャリアのある女性と経営者との交流サイト「Kigen W」に寄稿しておりましたが、同サイトが閉鎖したため、こちらに再掲していきます。
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エッセイスト、酒井順子さんの新刊子の無い人生」が2月に発刊されました。酒井さんは、これまでも、「負け犬の遠吠え」「少子」など、女性をめぐる社会現象を自らの体験をもとに洞察した話題作を生み出しています。今回も現代日本で増え続ける「未産女性」を独特の視点で分析しており、「子の無い」当事者である私は「あるある」と興味深く読みました。そこで考えさせられたのは、今日が働く女性の在り方の潮目の変化にあるということと、子どもがいない女性の老後のあり方です。

■女は子ども子どもの有無で分けられる
酒井さんは、「負け犬の遠吠え」を書いた後、「既婚だが子どもはいない」女性から、「私は負け犬ですか?」とたびたび尋ねられたそうですが、当時30代だった酒井さんは、「結婚しているんだから負け犬ではない」と考えていたとのこと。

ところが、40代で親を看取る体験をしたことから、「自分は死ぬときに誰に看取られるのだろう?」と考えるようになり、女性の人生は子どもの有無に最も左右されるという考えに至ったそうです。

『私が四十代になって、やっとわかったこと。それは、女性の人生の方向性には、「結婚してているか、いないか」よりも、「子どもがいるか、いないか」という要因の方が深くかかわる、ということでした。』(「子の無い人生」まえがきより)

■女性の出世の条件が変わる?
子どもの有無が女性の人生に及ぼす影響の大きさを認識した酒井さんは、本書の中で、ママ社会の中での身の処し方、世間の目の受け止め方、老後の在り方から沖縄の墓事情まで、子がいないことで生じるあれこれを独自の視点で分析します。

その中で、最も印象的だったのは、元社会党委員長の土井たかこさんをとりあげた章でした。土井さんは20世紀後半の日本を代表する政治家です。1986年、当時の社会党委員長に就任。日本の憲政史上初の女性党首となりました。その後、女性初の衆議院議長にも就任していますが、生涯独身でした。

2014年に土井氏が亡くなったことを振り返り、酒井さんは「仕事と結婚する女の時代は終わった」と指摘します。土井たか子氏が政治の世界に入った1960年代はもちろん、男女雇用均等法が成立して以降も、女性が仕事上で活躍するには、家庭での幸せを引き換えにせざるを得なかった時代が長く続きました。「男性並み」に働くことを社会が求めていたため、子どもを持つ前提である結婚は、キャリア中断の可能性があることとして許されなかったことのです。

しかし、最近は子どもがいること自体が、キャリアにプラスになるような変化が起きているようです。酒井さんは、その一例として、芸能人が子育てをアピールする人(いわゆる「ママタレ」)が増えてきたことをあげますさらに、

「これからは出世のために子を産むという女性が、増えてくるように思います」とまで語られています。実際に、政治の世界でも育児休暇取得により、自分はイクメンであることをアピールする議員がいたのは記憶に新しいところです。

私自身も、最近、研修の事務局として出会う企業のダイバーシティ推進部門の責任者に、女性が着任している例が増えているように感じます。ダイバーシティ推進のムーブメントの中で、今まで企業社会ではマイノリティであった女性を、まず率先して登用しようとする企業の意図が見えます。

今後の少子化に伴う労働人口の減少を考えると「子どものいる女性」に企業内で活躍してもらうことは不可欠です。だとすると、女性を登用したい部門での限定的な動きではあるかもしれませんが、女性活躍の旗印として「子どものいる女性」の登用を今後、拡大することも十分にありうるのことであるように思います。

■「女性活躍推進」の対象は子どもがいる女性?
女性の出世に関する酒井さんの分析を読み、昨今、巷で叫ばれている「女性活躍推進」に対する子無し女性が感じている違和感原因が何であるかが見えてきた気がしました。それは「女性活躍推進」の「女性」が、すなわち「子どもがいる」あるいは「子どもを将来持つ」ことを前提としているように思えること。したがって、子どもがいない女性は対象とはしていないように感じることです。

「女性活躍推進」で主に議論されているのは、子どもがいるために思い切って外で働けない女性のサポート、もしくは「産みたいけど産める状況にない」現状の改善です。だから出産の可能性のない女性は「女性活躍」の議論の範疇から外れているように見えます。

子どものいない女性に不安がないわけではありません。酒井順子さんがあげていたように、老後は誰が世話をしてくれるのか、考えれば考えるほど不安になります。

しかし、育児環境の改善についての主張は、労働人口の増加に直結することなので許されるとしてても、未産女性の老後は経済の生産性には寄与しません。そのため、自分のことを誰が看取ってくれるかといった不安について主張するのは憚られます。

そうした「女性活躍推進」について、酒井順子さんは現状を淡々と受け止めているようです。子どもがいない自分は、その人生を引き受け静かに過ごしていこうと語られています。

しかし、酒井さんがこの本を書くきっかけとなった「自分を看取ってくれるのは誰なのか?」という問いに対しては答えのないままです。甥や姪には迷惑を掛けたくないと考える酒井さんの主張は、子の無い女性の生き方への処方箋としては、今一つ切れ味がよくない印象があります。酒井さん自身も、老後・死後の不安にまだ決着をつけきれていないように感じるのです。では、子なし女性はどのように老後に向き合っていけばよいのでしょうか。

■属するコミュニティの多様性が鍵
そもそも少子高齢化の今の世の中で、老後や死後の世話を子供や甥姪といった肉親関係だけで担う発想自体が限界に近付いているように私には思えます。今後は地域でのつながりや同好の士といった、血縁に頼らないコミュニティでお互いの世話を担っていく発想もあってよいのではないでしょうか。

私にも甥がいますが、もし夫に先立たれたとしたら、自分はふだん接点のない彼より、私を良く知る友人たちに見送ってもらいたいというのが、正直なところです。

子の無い女性の将来への閉塞感の打破は、いかに家族以外のコミュニティを豊かに形成していくかに左右されるように思います。いま、子なし女性に必要なのは、家族や会社以外の人とのつながりを広げていくことではないでしょうか。

Kigen Wさんが提供するネットワークもその一つとなりうるでしょう。また私自身も、40代以降の働く女性を対象として、今後のキャリアを考えるワークショップ(「生き方ドック」)を主宰しており、女性同士のネットワーキングを推進しています。

いずれにしても、子どもの有無にかかわらず、老後や終末の不安解消のためには、まず家族や会社といった既存の枠組みにはない、新たなコミュニティ作りを将来に向けて培っていくことが重要であるのだと、この本を読んで再認識した次第です。

(2016年5月8日)

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