家族か、社会的使命か? ~映画「おやすみなさいを言いたくて」~
2015.09.04
家庭と仕事の両立について、考えさせられる映画を観ました。
エーリク・ポッペ監督、ジュリエット・ビノシュ主演の「おやすみなさいを言いたくて」です。
<あらすじ>
報道写真家のレベッカ(ジュリエット・ビノシュ)は家族のいるアイルランドを離れ、紛争地帯など危険に身をさらしながら世界各地の問題を取材し、誰も気付いていない現実を伝えようとレンズを向けている。そんな彼女を理解してくれている夫マーカス(ニコライ・コスター=ワルドー)に長女ステフと次女リサを託し、精力的に仕事に打ち込んでいた。どんなに離れていようと家族の絆は固いと思っていたが、彼女が命を落としかねない事件に巻き込まれたことから、家族の形に疑問を持つマーカスや心を閉ざすステフら家族の本心が見えてくる。自分の仕事が愛する家族を苦しめていたことに気付いたレベッカは、葛藤の末ある決断をする……。(「Movie Walker」より)
近所の映画館「ギンレイシネマ」の年間パスポート会員のワタクシ。
年間更新したのに全然見ていない…!と焦って観に行ったもので、特にこの映画を狙ってみたものではありません(^^;)。
しかし観終わった時には、いろいろな感情が押し寄せてきて、しばらくそれを表す言葉を見つけられませんでした。
報道カメラマンという仕事の場で紛争に巻き込まれる個人の尊厳を訴える使命感と、家庭で母、妻として家族と過ごす幸せを追い求めると、両方とも「私」です。
両者とも不可分です。
思春期を深めた長女は、ほとんど家にいない母親に批判的です。
しかし、学校での勉強を通じ、母親の写真が世の中の矛盾を訴える大きな役割を果たしていることを知り誇りにも思います。
しかし、母親の職場である紛争地に出かけていった際、自分と一緒にいるよりも、「報道」という社会的使命を果たすことを選んだ母親を受け入れることはできなくなりました。
(この長女役の女優さんの、思春期特有の不安定な美しさがすばらしい!)
家族と別れたレベッカは、再び戦場に向かいます。
私が非常に印象的だったのは、レベッカの訴えるものが、紛争における個人の尊厳であるという点でした。
特に、女性や子供の受ける悲惨さを写真を通じて強く訴えています。
その彼女の問題意識は、自分の子供の存在によってより強くなっています。
アフリカで鼻を削がれてしまった少女、アフガンで自爆に向かう女性…
それは、自分の子供や、時に自分自身を重ねているからこそ、彼女の写真が人に訴える力を増しているのではないでしょうか。
報道という使命を選ぶことによる家族の悲しみを、言いわけなく自分が引き受けている強さが、写真の力強さにつながっていく…そんな気がしました。
家庭と仕事、どちらを選ぶべきかの答えはありません。
どちらも包含して「自分自身」なのであり、どちらかを選ぶことで、何かを捨てなければならない悲しみも引き受ける。
そこで人は大きくなっていくのだ…
そんなことを感じた映画でした。
ポッペ監督は、かつて報道カメラマンだった自分の姿を、レベッカに投影しているとのこと。
家族と仕事との葛藤は、男女関係なく生じるものでしょう。
しかし主人公を女性に変えたことで、よりその辛さが際立つように思いました。