なぜ企業は同じ問題が繰り返される?~電通女性社員過労死判定に感じたこと
2016.10.11
電通で昨年自殺された高橋まつりさんの死因が「過労死」であったと、労基署が認定したとのこと。
このニュースを聞いたときに、まず「あれ?ずいぶん昔のニュースじゃないの?」と思いました。
1991年の「電通社員過労自殺裁判」を思い出したからです。
※長時間労働の結果うつ病にかかり自殺したケースの裁判事例(電通事件)
この事件は、企業側に従業員への「安全配慮義務」があるという見解が示された画期的な判例として有名です。
こうしたことがあったのに、なぜまた、同じ企業で同じようなことが繰り返されてしまったのでしょうか?
実際、現在の電通のホームページを見ると、「CSR」という項目があり、その中に「労働環境の整備」と題された行動憲章が謳われています。
また「人権の尊重」の項目もあり「業務遂行上での人権侵害は一切いたしません」と宣言されています。
おそらく、会社としては、メンタルヘルスの研修を行い、勤労管理の重要性をアナウンスし、対策に努めてきたものと思われます。
しかし、それが組織全体には届いていなかった。
過度な超過勤務が蔓延する体質は変わらなかった。
事実関係は、今後の調査を待たなければなりませんが、今の電通の管理職たちは、25年前の事件のことも、きっと「電通社員」として体験した人たちでしょう。
しかし同じような事件が繰り返されてしまった。
体質が変わらないといった意味で、三菱自動車で燃費データの不正なども思い出されます。
推測に屋上屋を重ねるようで恐縮ですが、こうした事件発生の原因の一つに、営業などの現場と管理部門との乖離があるように思えます。
CSRなどを推進するのは、おもに人事部や企画部など、「管理部門」といわれる部署です。
問題が発生しやすいのは、主に営業や開発の「現場」です。
営業や開発などは、顧客のニーズに日常的に接しているため、その要求にこたえようというドライブがかかります。
そこに「残業時間の削減」などと管理部門からかかってくる声は、雑音にしか聞こえません。
下手をすると、自分たちの仕事を邪魔するものとまで受け取られます。
「事件は現場で怒ってんだ―」…そんな声が聞こえてきそうです。
管理部門側も、必ずしも現場の状況をよく踏まえたうえで施策展開を行っているわけではなく、ややもすると一律的に施策を押し付けてしまいがちです。
そのことが、また現場の反発を招きます。
結果として、現場では「管理部門の言っていることは聞かなくてよい」ということになってしまったのではないでしょうか。
私は現場も管理部門も経験しました。
上述の話は自分の経験談から推察しています。
働く私たち一人ひとりが、今一度、客観的な視点で自分の仕事を見直し、自分が所属する組織の論理だけで通じるリクツで働いてはいないかを見直す必要があるように思っています。
それが、様々な立場や考えの人が、相互に協力し合う組織で働く意味だとも思うのです。
末尾ながら、高橋まつりさんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。